コラムvol.84【慈悲】
慈悲のこころ――他者を思いやる力
今日は「慈悲(じひ)」についてお話をさせていただきたいと思います。
仏教では「慈悲」がとても大切にされています。慈とは、相手が幸せになることを願う心。悲とは、相手の苦しみを自分のことのように感じて、その苦しみを取り除いてあげたいと思う心です。つまり、慈悲とは他者の幸せを願い、その苦しみに寄り添う、温かい心です。
現代社会は、スピードや効率が重視される一方で、人と人とのつながりが希薄になりがちです。そんな時代だからこそ、私たちは改めて慈悲の心を育てていく必要があります。
では、慈悲とは特別なことなのでしょうか?決してそうではありません。たとえば、落ち込んでいる友人に「大丈夫?」と声をかける。困っている人にさりげなく手を差し伸べる。そんな日常の小さな行いの中にも、立派な慈悲の心が息づいているのです。
お釈迦さまは、すべての生きとし生けるものに慈しみの心を向けるよう説かれました。「自分が愛するように他者を愛せるか」という問いを、私たちは自分自身に投げかけてみるべきかもしれません。
しかし、他者に慈悲を向けるには、まず自分自身にも慈しみの心を向けることが大切です。自分を責めすぎず、ありのままを受け入れ、大切にする。それが慈悲の出発点です。自分を大切にできる人は、自然と他者にも優しくなれるのです。
慈悲は、何か特別な修行の成果ではなく、日々の中で育まれていくものです。今日、誰かに優しい言葉をかけるだけでも、私たちは一歩、慈悲の人に近づくことができます。
そのような心を、私たち一人ひとりが持てたなら、世の中はきっと、もっと温かく穏やかな場所になることでしょう。