コラムVol.80【写経】
静寂の中に心を整える ― 写経のすすめ
先日訪問した寺院にて写経会が行われており参加いたしました。
現代社会において、日々の喧騒に心を乱されることは少なくありません。そんな中、古来より続く「写経」という仏教の実践が、静かな心の安らぎと気づきをもたらしてくれることをご存じでしょうか。
写経とは
写経とは、仏教の経典を一字一字丁寧に書き写す修行であり、その起源は仏教がインドから中国、日本へと伝わった頃にさかのぼり、経典の流布と保存、また信仰の表現として盛んに行われてきました。
写経で多く用いられるのは『般若心経』で、わずか262文字の中に仏教の真髄が凝縮されています。墨をすり、筆をとり、心静かに文字を綴る時間は、自らの内面を見つめ直す貴重なひとときとなるでしょう。
写経の意義
写経は、単なる書写ではありません。以下のような深い意義が込められています:
- 祈願・供養:先祖や故人の冥福を祈る供養、病気平癒、心願成就などを祈って写経を奉納する方も少なくありません。
- 精神修養:一字一句に心を込めて書くことによって、集中力が高まり、雑念が薄れ、心が整っていきます。
- 仏道の実践:仏の教えを体得するための行として、自らの煩悩や執着を見つめる機会となります。
現代における写経
最近では、寺院だけでなく、写経体験ができるカフェや書道教室、オンライン講座なども増えており、宗教的背景に関係なく広く親しまれるようになっています。また、墨や筆の代わりにボールペンや鉛筆を用いるなど、より身近な形でも写経が実践されています。
しかし、形は簡素でも、心の在り方こそが写経の本質です。ゆっくりと筆を運び、呼吸を整え、仏の教えに耳を傾ける――その時間は、現代人にとって何よりの「心の禅」となるでしょう。
もし心が騒がしく感じられるとき、あるいは自分自身と向き合いたいと感じたときは、ぜひ写経を試してみるとよいかもしれません。そこには、静けさとともに、本来の自分を取り戻すためのヒントがあるかもしれません。